【おすすめの小説】本多孝好 「Missing -眠りの海 -」(ネタバレあり)
こんなお話
男は両親の亡くなった海で飛び降り自殺を図ったが失敗し、一人の少年に助けられた。
「人を死なせてしまってな」
男は少年に自殺の理由を語る。
全てを聞き終わったあと少年は笑った。
「誰についとるんや、その噓は」
凍った心が溶ける様な穏やかさと、
どうしても取り返しのつかない喪失感と、
2つを同時に味わせる様な男性のラブストーリー。
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あらすじ(前半〜中盤)
男が海に飛び込み自殺を図ったが失敗し、この辺りに住んでいるという少年に助けられる。
少年は男が自殺を図った理由を男に尋ねた。
「人を死なせてしまってな」
男は幼少期に両親を交通事故で失う。
親からの愛情に飢えてはいたが、自分の気持ちを表に出したところで、両親が生き返り愛情をくれるわけではない。
こうして、男は本心を隠すように他人との間に一線を引いて生きてきた。
大人になり教師になった男は、京子という女子生徒と出会う。
彼女はたった一人の家族である母親からの愛情を感じることができずにいた。
「彼女と会ったとき、私は誰かに似ていると思った。何のことはない。その顔は、幼い頃の私と同じ顔なのだ。 」
男と京子は教師と生徒でありながら付き合うことになったが、2年もしたところで学校に関係がばれてしまい、別れるようにと忠告を受けた。
男は教師であることに執着はなく、クビになっても良かったが、急に世間体が気になり彼女が卒業するまでの半年間、別れることにした。
2人は最後に男の運転する車で海まで行くことにしたが、道中で事故にあい、彼女だけが亡くなった。
事故後、彼女の母親がシュウカイドウという花を持って男を訪ねた。
彼女が大切に育てていたらしい。
そんなことも男は知らなかった。
もっと生きたかったはずの彼女の命を断ってしまった。
自分は彼女の元へ行って詫びるべきだと男は語る。
「誰についとるんや、その噓は」
少年は酷く悲しげな顔をしていた。
男はいつかどこかでこの少年と会ったことがある事を思い出す。
少年は彼女は男と共に死にたかったのだと男の推測を否定する。
「おっさんの生き死にに興味はあらへん。俺はただ起こったことを起こったままに見ているだけや」
あらすじ(中盤〜後半)
運転する男の膝に乗ってきたのはなぜ?
事故現場にブレーキ痕がなかったのはなぜ?
飲み終わった缶を足元に転がしたのはなぜ?
少年の言う「起こったことを起こったまま」見てみると彼女が意図的に事故を起こしたようだった。
少年の話が正しかろうと間違っていようと、それでも男は彼女に詫たいと思う。
「彼女に愛してもらえなかったことが、そんなに悲しいんか? 」
どうしても自分も亡くなった彼女の元に行きたいと言う男に少年は穏やかに問いかける。
男はあるがままの他人を愛することができない。
そして、あるがままの自分を愛してもらえない。
自分が愛した京子も、本当の京子ではない。
そして、京子の愛した男も本当の男ではない。
それに気がついていた彼女は、愛した男か本当の男か、どちらかを消すしかなかった。
「片思い。それがシュウカイドウの花言や」
彼女は彼女の世界で男を愛し、男は男の世界で彼女を愛したことに嘘はなく、お互いの世界が交わらない事はしたがない。
死だからといって、どうなるわけでもないという少年の言葉から男はぬくもりを感じた。
少年だけではなく、これまで関わってきた人たちのぬくもりをやっと感じることができた。
そして、少年は男にみんな同じように自分の世界で生きていること、そうしていくしかないことを語る。
その頃には、少年が誰なのか男ははっきりと思い出していた。
「両親の車の前に飛び出し、事故のきっかけを作った子供だった。何かに耐えるように唇をきっと結んだその顔を覚えていた。けれど彼は、耐え切れなかったのだろう。」
ひとこと感想
なんでこの人はこうしてくれないの?
理想を押し付けないで!
どうしてもそれには共感できない…
と思うことは多々あります。
それは、お互いがお互いの世界で生きていて、その世界が重なり合わないからだと思うと、わざわざその人の期待に応える必要もないし、共感できない事があっても仕方がないと、気持ちが楽になりました。
少年の言葉に、自殺を図った男のように、私も救われたように思います。
「おっさんはおっさんの世界で生きるしかないやろ。おっさんだけやない。みんな同じや」